__ | 宇宙空間の利用と宇宙条約 |
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スプートニク、ボストーク、アポロなどの人工衛星は地球の重力を振切って宇宙空間に到達するものだ。 しかし、振切るのはなにも重力に限らなかった。 各国の主権 (統治権)、法規範、国際世論、、、ある意味では重力よりも手ごわい Force をも振切る必要があったのだ。 インターナショナルやグローバリゼーションなどの言葉自体は存在するが、基本的にこの惑星は、国という主権の帰属団体が入り乱れて成り立っている。従って、主権の範囲内のことならともかく、それ以外の範囲についての権利・義務は不明確であり、不平等であり、そして常に流動的である。 もとより国際法 (条約)は、主権と主権の隙間や主権と主権の衝突を見据えた法規範だが、その制限規範性については疑問視するむきもある。 国際法が有効に機能するためには各国の批准 (その前提としての署名調印も含む) が必要だが、批准するかどうかの裁量権は当然その国家にあり、国際法で取り締まる必要がある国家というのは得てして当該国際法に批准しないのである。 あるいは、批准したとしても都合が悪くなると即座に脱退したり、また、脱退しないまでも、国内法に抵触することで争いが生じたりもする。「一元論と二元論」 「憲法優位説と国際法優位説」 などは いまだに争いの絶えない憲法解釈学上の重要論点であるし、憲法以外の法規範についても常に国際法が優先するとは限らないのである (わが国では 法律以下の法規範については国際法が優位するが、憲法については争いあり)。 では、具体的に、宇宙空間の利用についての取り決めはどうなっているのか。 領土、領海、領空などが各国の主権・統治権の内容であることはよいとして (国際民間航空条約や刑法の国内犯規定等を参照のこと)、宇宙空間については国内法レベルでは定かでない。 領空の延長線上としてとらえるにしても、領空と宇宙空間それぞれの定義が問題となるからだ。 領空と宇宙空間を便宜的に大気圏という概念を使って区分する場合でも、そもそも大気圏 (対流圏、成層圏) の定義自体が曖昧では同じことである。 以上の問題点と、国連宇宙平和利用委員会 (1958年〜)ならびに先に成立した南極条約 (1959年〜) 等の意向をふまえた上で、いわゆる宇宙条約 (「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約(*1)」) が1966年に国連総会で採択されたのである (著名・調印・批准が可能となったのは1967年)。 宇宙条約が、宇宙空間をも対象にし始めた 当時の米ソ軍拡競争を脅威と見なしていたのは明らかだ。 同条約を筆者なりに纏めてみると次のようになる。 宇宙空間の利用に関する自由平等宣言 (基本原則)、 宇宙空間における科学的調査の自由 (基本原則)、 宇宙空間の利用における平和主義 (非軍事的利用)、 宇宙空間における領有の禁止、 宇宙飛行士に対する援助、 宇宙空間の利用における国家責任・賠償責任 (無過失責任/故意・過失がなくても責任を負う)、 宇宙空間における物体及び乗員に対する国家の管轄権・管理権、 宇宙基地や宇宙船等の開放 (相互主義)、 宇宙空間における宇宙活動の国際協力、 などである。 それでは、いわゆる宇宙法 (宇宙空間の利用等に関する全法規範) について、ケルゼン流の法段階説 (*2) に当てはめることの妥当性を、宇宙条約と各国憲法との関係や、宇宙条約と他の宇宙空間の利用等に関する条約との関係から見てみたい。 先ず、ケルゼン流の法段階説に忠実に従うならば国際法たる宇宙条約は宇宙法における最上位法となるべきものだが、上述したように、国際法 (条約) と各国憲法との関係をケルゼン流に断定することは妥当でないし、また現実的でもない。 ちなみに、わが国においては、国際協調主義 (日本国憲法前文及び98条第2項) を根拠に 「一元論 (国際法・条約と憲法以下を同じ土俵に置く)」 をとるが、 それらの効力関係については、国際法優位なのか憲法優位なのか見解の分かれるところだ。 ただ、少なくとも、国際法 (条約) については憲法判断 (違憲審査) を意識的に避けるのが通例である。 次に、宇宙条約と 他の宇宙空間の利用等に関する条約 (*3) との関係であるが、これについても解釈の分かれるところなので問題提起のみにとどめたい。 (1) 宇宙条約に憲法のような最高法規性が認められるか否か、(2) 認められるとした場合の授権規範性 (ITUが行っている衛星軌道の割り当て等の当否) 及び制限規範性 (宇宙条約に抵触する部分については無効となる等)、(3) あるいは、宇宙条約を一般法と解した場合の 特別法たる他の条約との関係 (特別法を優先。一般法は補充的に)、などが問題となる。 スプートニクやボストークなどは、これら宇宙法たる国際法 (条約) を意識しないで宇宙空間を飛行することが出来たが、宇宙条約発効後のアポロなどでは、サターンロケットのエンジンパワーのその何割かを、宇宙法や国際世論のしがらみ突破に費やしながら必死になって重力を振切ったのではないか (真面目にとらないように)。 宇宙法とのからみでは、北朝鮮の弾道ミサイル テポドンが差し迫った問題となるだろう (現在の日付は1999年7月29日)。同弾道ミサイルは、その飛行高度 (600km以上) からして主権侵害 (領空侵犯) とみなすには少々無理があるかもしれないが、宇宙条約が掲げる 「宇宙空間の利用についての平和主義 (非軍事的利用)」(*4) には明らかに抵触するだろう。 ただ、宇宙条約を批准 (加盟) していない同国に対して、それがどれだけ効果があるのかは甚だ疑問だ。 その他、純粋な科学目的のスペースシャトルは良いとしても、軍事目的が意図的に隠された科学目的もどきのスペースシャトルはどうなのかという問題や、将来登場するであろう民間のスペースプレーンの位置付け (宇宙条約にいう国家責任で括れそうだが)、あるいは 国際宇宙ステーションや他天体の基地内等における各国管轄権の衝突など、頭痛の種が増えることが予想される。 - - - - - |