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ミュージック
サウンド・トラック

曲名:ツァラトゥストラはかく語りき(冒頭部分)
作曲:リヒャルト・シュトラウス
演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)
指揮:カール・ベーム
(ヘルベルト・フォン・カラヤン)
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Music: Also Sprach Zarathustra
Composer: Richard Strauss
Orchestra: The Berlin Philharmonic Orchestra
(The Vienna Philharmonic Orchestra)
Conductor: Karl Bohm
(Herbert Von Karajan)

ツァラトゥストラはかく語りき(MIDI演奏)This MIDI sequence from
m-a's homepage
The original author is
Masao Asakawa
※About Copyright

映画「2001年宇宙の旅」の冒頭のタイトルバック及び人類の夜明け(THE DAWN OF MAN)(*1)並びにスターチャイルドが宇宙に漂う最後の場面などで奏でられるこの曲ほど、同映画と密接不可分な曲はない(*2)。まるでこの映画のため(*3)につくられたかのような交響詩の主題は宇宙開闢直後の混沌としたカオスの世界であり、それはまた、ニーチェ(*4)自身がツァラトゥストラ(*6)になりきって世に問うた哲学をも内包するものだった。キューブリックは、この壮大な交響詩をもってして、映画「2001年宇宙の旅」を既存のジャンルにとらわれない人類進化の序章(*7)とも言える作品に仕立て上げたのである。

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(*1) 人類の夜明け(THE DAWN OF MAN): 小説「2001年宇宙の旅」でいえば第一部 原初の夜に該当する。

(*2) この交響詩は優に30分を超えるが、映画では冒頭部分のみを使用。

(*3) キューブリックの「派手な演出」に対し、クラークの同名小説は平易かつ淡々とした語り口であり、これが「同名の異作品」といわれる所以だ。

(*4) ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche): ドイツの哲学者。1844〜1900。散文叙事詩「ツァラトゥストラはかく語りき 」の著者。実在主義者であった彼は、キリスト教的思想・倫理観(なかんずく民主主義)を「弱者主体の道徳」を説く主観的な観念論にすぎないと痛烈に批判し、客観性に裏打ちされた「実体が説く思想」を追い求める過程で、「強者主体の道徳(君主道徳)」こそがそれに違いないとの結論に至る。かかる民衆を導く強者=人類の支配者像を極限まで突き詰めるたところにあるのが所謂「超人(*5)」と称される人類支配者の理想像であり、彼はその出現を本気で嘱望していたといわれる。

「2001年宇宙の旅」がニーチェの超人思想を意識しているのは明らかだが、特にキューブリックの映画は、その曲名、その曲の使われ方からして、ニーチェの思想がプンプン匂う作品である。このことからしても、「2001年宇宙の旅(映画)がキリスト教的思想を土台にしている」との評価は妥当とは言い難い。キューブリックがこの映画を通して思い描いていた「それ」は、既存の宗教とはおよそかけ離れたものだったに違いないからだ。

(*5) 超人: ニーチェの説く超人とは、(1)実体を有し(実在人)、(2)確固たる権力(支配力)への意志を持ち、(3)人類が生まれながらに持っている「矛盾、不完全性」を克服し、(4)人類の可能性を極限まで高めた、人類の究極の理想像のことである。

(*6) B.C 6世紀頃に現出したツァラトゥストラ教(ゾロアスター教)は火−太陽−星を崇拝する宗教で、その始祖はアフラ・マヅダ=ツァラトゥストラ=アヴェスタである。

(*7) 別言すれば従来の「進化論」をあざ笑うかのごとき異端説ともいえる。

※ 上述のように、「2001年宇宙の旅」と「ツァラトゥストラはかく語りき(冒頭の導入部分)」とは一心同体ともとれる関係にあったのであり、前者が後者を使用したことで、クラシック音楽ファンのみならず一般人にまでその曲名を広く知らしめたといえる。
※ 映画内で実際に使われた 「ツァラトゥストラはかく語りき(冒頭の導入部分)」 については、指揮者・演奏楽団の表記等に関して特殊な事情 があったことが知られている。

曲名:美しく青きドナウ
作曲:ヨハン・シュトラウス二世
演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
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Music: On the Beautiful Blue Danube
Composer: Johann Strauss Jr.
Orchestra: The Berlin Philharmonic Orchestra
Conductor: Herbert Von Karajan

美しく青きドナウ(MIDI演奏)This MIDI sequence from
Classical Quality Midi
The original author is
Mark Anthony Williams
※About Copyright

あの生々しく退屈極まりない(*1)と言われる人類の夜明け(THE DAWN OF MAN)から、いきなり(*2)宇宙時代の地球周回軌道上に移った場面で演奏されるのがこの曲である。前場面が暗く生臭かったが故に、この明るく美しいワルツを背景にした無機質な空間への切り替わりは、解釈に戸惑っていた観客に一種の爽快感を与えてくれる。この後、フロイド博士たちが搭乗した宇宙船オリオン号国際宇宙ステーションとランデブーしドッキングするのだが、しかし、厭世主義者として知られたキューブリックは別の視点からこの場面を解釈させようとしていたに違いない。美しいワルツで装飾された美しい宇宙船と宇宙ステーションも、ヒトザルが抹殺の「道具=武器」として使った骨の延長線上にあるのだよと、、、

なお、美しく青きドナウは、フロイド博士たちがエアリーズ号(アリエス1Bムーンシャトル)で月基地へ向かう場面や、スターチャイルドが誕生するラストシーンの後のエンド・タイトルが流れる場面などでも演奏されている。

(*1) 筆者はそうは思わないが。

(*2) ヒトザルが空高く投げ上げた骨が変化した(骨のような形をした)宇宙船はオリオン号ではない。オリオン号は翼を持つ美しい流線型のスペースクラフトである。

曲名:ソプラノ・メゾソプラノ・二つの混声合唱と
管弦楽のためのレクィエム
作曲:ギョルギィ・リゲッティー (=ジョルジ・リゲティ)
演奏:バイエルン放送交響楽団
指揮:フランシス・トラビス
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Music: Requiem For Soprano,Mezzo Soprano,
Two Mixed Choirs & Orchestra
Composer: Gyorgy Ligeti
Orchestra: The Bavarian Radio Orchestra
Conductor: Francis Travis

言わずと知れたモノリスの「テーマ曲」である。人類の夜明け(THE DAWN OF MAN)でヒトザルを見守るようにそびえたつ地上のモノリス、ティコクレーターで発掘された月面モノリス(TMA1)、そしてボーマン船長を未知の時空間に導いたスター・ゲート=ビッグ・ブラザー(TMA2)。これら、映画「2001年宇宙の旅」に登場する黒石板は、リゲッティーのミサ曲を背景とすることによって不気味さを倍化させ、人類進化の道筋として「死(それは同時に生の始まりでもある)」が重要な意味を持つことを教えているようにも思える。いわばそこに描かれているのは「無機的外観に包まれた、人間くさくて、悪臭すら感じる」モノリスであり、それこそがキューブリックの意図した「宗教的意味合いを併せ持つ」モノリスだったのではないか。

これに対し、映画「2010年宇宙の旅」では、木星モノリス(TMA2)が「マシーン(フォン・ノイマン・マシーン=オートマトン)」であることを必要以上に強調するあまり、およそ「死という事象を扱う哲学や宗教」とは相容れない「めでたし、めでたし」の作品になってしまっていて、こと映画に関しては続編とは認めないとする意見が多い(それら意見の根底には「キューブリックの映画でない」ということも当然あるだろうが)。

※ レクィエム(レクイエム): 死者の霊魂を慰める鎮魂歌(ミサ曲)のこと。

曲名:永遠の光を
作曲:ギョルギィ・リゲッティー (=ジョルジ・リゲティ)
演奏:シュトットガルト・スコラ・カントルム
指揮:クリトゥス・ゴットヴァルト
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Music: Lux Aeterna
Composer: Gyorgy Ligeti
Performer: Stuttgart Schola Contorum
Conductor: Clytus Gottwald

フロイド博士たちは、ティコ・クレーターで発掘された月面モノリス(TMA1)を調査するため、ムーンバスに搭乗してティコクレーターを目指していた。月面基地(クラビウス・ムーン・ベース)からティコまではおよそ数百マイルの行程だ。月面をかすめ飛ぶムーンバスの背後にながれるこの幻想的な合唱曲(*1)は、不可思議な響きを伴いながら、まるで水先案内人のように「人類進化のイベント会場(*2)」へとムーンバスを導いていくのだった。

(*1) この合唱曲の持つ「魅惑」は、月の無味乾燥のアバタ面をみずみずしい深海底に見せてしまうから空恐ろしい。

(*2) 月面モノリス(TMA1)にフロイド博士が触れた瞬間、人類の運命は決定された。「進化のスイッチ」を備えたTMA1は、ただひたすら、人類がスイッチを押す(それに触れる)瞬間を待ち続けていたのである。

曲名:舞踏組曲「ガイーヌ(カヤーヌ)」の中の
「アダージオ(アダージョ)」=第2組曲の3曲目
作曲:アラム・ハチャトリアン(ハチャトゥリアン)
演奏:レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ゲンナディー・ロジェストヴェンスキー
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Music: Gayne Ballet Suite - Adagio
Composer: Aram Khachaturian
Orchestra: Leningrad Philharmonic Orchestra
Conductor: Gennadi Rozhdestvensky

時は2001年、惑星間宇宙船ディスカバリー号(*1)は木星を目指して(*2)宇宙空間を航行していた。穏やかで順調な宇宙飛行が続いていることを表すこの合奏曲の調べは、過酷な運命が待ち受けていることを知る者にとっては余りにも美しすぎて心に悲しく響く。「赤子」をあやす子守唄がつかの間の安らぎでしかないことを知るが故に、、、

(*1) 「2010年宇宙の旅」では、ディスカバリー号(1号)救出のためのディスカバリー2号が建造中ということになっている。

(*2) この場面のボーマン船長プール飛行士は、まだ、「真の任務=木星モノリス(TMA2)を目指していること」を知らされていない。

曲名:無限の宇宙
作曲:ギョルギィ・リゲッティー (=ジョルジ・リゲティ)
演奏:南西ドイツ放送管弦楽団
指揮:エルネスト・プール
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Music: Atmospheres
Composer: Gyorgy Ligeti
Orchestra: Sudwestfunk Orchestra
Conductor: Ernest Bour

惑星間宇宙船ディスカバリー号でただ一人生き残ったボーマン船長は、このミッションの真実を知る。しかし、調査チームのカミンスキー、ハンター、ホワイトヘッドはもういない。船長自らが調査をするしかないのである。スペースポッド2号(*1)に乗り移ったボーマン船長は、ディスカバリー号を後にして徐々にビッグ・ブラザーに接近しはじめた。もはやこの宇宙船に戻ることはないだろう、、、

「無限の宇宙」は、ボーマン船長がビッグ・ブラザー(TMA2/木星モノリス)に翻弄される(*2)クライマックスシーンを背後で演出する曲で、演奏とも雑音とも判断しかねる無数の「音」を組み合わせて、ハイパースペース(超空間)の描写に一役買っている。

(*1) ポッド・ベイにはスペースポッド3号のみが残された。

(*2) ボーマン船長を乗せたスペースポッド2号は、ビッグ・ブラザーに吸い込まれて(スターゲートコリドー)超空間を経た後、地球から20,000光年彼方の連星系 (二重星)に到着する。

----------------- 参考
2001年宇宙の旅 (早川書房) 2010年宇宙の旅 (早川書房) 2001 A Space Odyssey (Paperback) 2010 Odyssey Two (Paperback) 2001 A Space Odyssey (MGM) 2010 Odyssey Two (MGM.UA) Script: Internet Resource Archive 「リーダーズ・チョイス -私の愛聴版- 読者が選ぶ名盤名曲100」(音楽の友社) 2001 a space odyssey-Sound Track(MGMレコード) 2001 SPACE ODYSSEY Volume Two-Sound Track(MGMレコード) 「2001年宇宙の旅」パンフレット(1978年=昭和53年度版/東宝)

Writer: Masaakix Web site: http://www.masaakix.interlink.or.jp/

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