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Summary Cameras Lunar Surface Landing site Eva Lunar Samples Science Experiment 1 SIM Science Experiment 2
Mission type Launch Launch vehicle Payload (Spacecraft) ALSEP Mission Commander Command module pilot Lunar module pilot Translunar injection CSM-LM docking Lunar orbit insertion LM's crews CSM-LM separation Lunar landing Lunar Landing site Lunar surface EVA-1 Lunar surface EVA-2 Lunar surface EVA-3 Lunar Roving Vehicle Lunar surface stay time Lunar samples Lunar liftoff LM-CSM docking LM Released LM Impact moon Lunar orbits Transearth injection Duration Earth Splashdown Depository |
1972年12月7日 午前12時33分 (EST) のケープケネディ Complex 39 Pad A。6回目の有人月面着陸を目指してアポロ17号は打ち上げられた。夜間の打ち上げはサターン5型ロケット(Saturn V)にとって初めての経験となる。5機のF-1エンジンが吐き出す炎は、まるで最後の使命を自覚しているかのように明るく辺りを照らし続け、フルスラストになると同時に17号を離陸させた。およそ50万人の見物人が直接この「最後の旅立ち」を眺めていたという。今回17号が目指すランディング・サイトは、幻想的で美しい山岳エリアのタウルス・リトロー(Taurus-Littrow)だ。 クルーは船長のユージン・サーナン(*1)、司令船パイロットのロナルド・エバンス、そして月着陸船パイロットのハリソン・シュミットである。 最後の有人月面着陸ミッションに相応しいバックアップ・クルーの面々に触れておくと、バックアップ船長のジョン・ヤング(John Watts Young)、バックアップ司令船パイロットのスチュアート・ルーサー(Stuart Allen Roosa)、バックアップ月着陸船パイロットのチャールズ・デューク(Charles Moss Duke,Jr.)となっており心強い限りだ。 ----- [ 3回目(最後)のJ mission ] アポロ17号ミッションは6回目の有人月面着陸であり、3回目の J mission でもあった。筆者は「17号で突如アポロ計画が中止された」と書きつづけてきたが、それはアポロ18号以降のミッション・プランが現実に存在していたからだ。(*1)もちろんそれはアポロ−ソユーズ(Apollo-Soyuz)計画(*2)などではない。有人月探査ミッションを含まないプログラムは、その名称の如何にかかわらず、本来のアポロ計画とは切り離して考えるべきだ。 アポロ16号のところで書いたように、アポロ計画が突如中止された理由を俗世間の中にのみ見出すことは、かえって真実から遠ざかってしまうことにもなりかねない。「15号〜17号のJ missionで18号以降の目的も達成されてしまった」 という説を打ち立てることができるとするならば、前々回の15号から行われてきたハイレベルな探査活動によってどのようなデータやサンプルが収集されたのか、あるいは今回の17号ではどのような実験やサンプル採取が行われたのか等を見極めることが必要ではないだろうか。特に今回はアポロ計画としては画期的で、地質学者のハリソン・シュミット(*3)が実際に月面に降り立って探査活動を行っている。 これまでのミッションで得られたデータから 「ある命題が打ち立てられ」それを地質学者自らが確認に赴いたともとれる人選なのである。 ----- (*2) 本来のアポロ計画終了後、米国と旧ソ連はアポロ−ソユーズ(Apollo-Soyuz)計画のもと宇宙開発に関して連携を強化する。宇宙開発は「競争の時代」から「協力の時代」に入ったとマスメディアはこぞって伝えたが、しかしちょっと待っていただきたい、この「協力の時代」が既に1960年代の頃から始まっていたとするむきもあるのだ。それは、ルナ計画(旧ソ連)、ゾンド計画(旧ソ連)、レンジャー計画(米国)、サーベイヤー計画(米国)、ルナ・オービター計画(米国)、そしてアポロ計画(米国)のことを指しているのだが、実際のところ、それら月探査計画の宇宙船が軟着陸及び激突したサイトに注目してみると、複数の宇宙船(月探査機)が集中しているサイトがあるかと思えば、逆に、まるで役割分担したかのように分散しているサイトもあって、「(ルナ)−(レンジャー) − (サーベイヤー) − (ルナ・オービター)計画」 あるいは 「(アポロ)−(ゾンド)計画」 といえないこともないのである。 (*3) ハリソン・シュミットはハーバード大学出身のれっきとした地質学者で、アポロ計画終了後も3年ほどNASAにとどまり「ある(研究)計画」において中心的役割を果たしている。アポロ計画においては今回の17号の他にも、15号のバックアップ・クルー(Backup-月着陸船パイロット)を務めていた。 前回16号のランディング・サイトも「海(Mare)」ではなかったが、今回の17号も、「海」と「海」とに挟まれた山岳エリアのタウルス・リトロー(Taurus-Littrow)(*1)にランディングしている。そこは、南側には静かの海(Mare Tranquillitatis = Sea of Tranquility)が、北西側には晴れの海(Mare Serenitatis)が広がっている場所で、あたり一面は山や谷や崩れかけた大小さまざまなクレーターが取り囲んでいる。以上のような複雑な地形にもかかわらず、撮影された写真に写し出された情景は幻想的で美しかった。それはまるで地球の南極か北極を髣髴させるものであり、おそらくペンギンが歩いていても不思議とは思わないのではないか。筆者がもしも月に行けるなら是非とも候補地の一つに加えたいサイトである。 ここから北へ150kmほど行ったところにあるルモニエ・クレーター(Le Monnier crater、266.6N,30.6E、直径約60km)の内部には、1973年1月8日(*2)に打ち上げられたルナ21号(CCCP/旧ソ連)が軟着陸している。同号に搭載されていた無人の月面車(ルノホート2号/Lunokhod 2)は4カ月の間に延べ37kmにもわたってクレーター内部を動き回り、観測や実験を繰り返して多数の写真や映像を地球に電送している。 ----- (*2) ルナ21号はアポロ17号の打ち上げ(1972年12月7日 )からおよそ1ヶ月後に、まるで後を追うように打ち上げられている。しかもその軟着陸地点はタウルス・リトローから150km程度の至近距離である。なお、無人の月面車(ルノホート2号/Lunokhod 2)には熱源(*3)として放射性元素のポロニウムが積載されていたが、環境汚染対策がなされていたかどうかについては不明だ。 (*3) 月の夜(暗い影の部分)は摂氏マイナス180度前後の極寒の環境となるので、なんらかの熱源で保温してやらないと凍り付いて故障してしまうのだ。逆に、月の昼間(太陽に照らせれた明るい部分)は摂氏100度以上(120度〜140度)にもなる。夜と昼との寒暖差はおよそ摂氏300度。月の表面は生物にとってもマシンにとっても非常に過酷な環境といえる。もっとも、月面下数メートルなら人間でもなんとか住める気温(摂氏マイナス数十度)になるので、将来の月面基地は月面下に造ることになるだろう。 [ 最後のJ-missionで実施された実験及びサンプル採取 ] 今回の17号でもEVA(月面船外活動)が3回実施されている。(*1) さらに、J mission 特注のLRV(月面車)は広範囲にわたる探査活動を可能にし、興味深い実験や不思議なサンプルの採取に一役買っている。 採取されたサンプルについて一例をあげると、ショーティー・クレーター(Shorty Crater) の縁で見つかった有名な オレンジ・ソイル(Orange Soil) というサンプルがある。これは、月の歴史から見れば「ごく最近」に起こったと思われる爆発性の衝撃に起因するサンプルである。 実験についても、さらなる「新兵器」が登場したり、同内容の実験が精度を上げて実施されており、それはまるで最後の有人月面探査で「全てをやってしまおう」ともとれる、あわただしいミッションだった。 月周回軌道上では、SM (機械船) にマウントされている SIM (Scientific Instrument Module) によって、レーダー波探査 (Apollo Lunar Sounder Experiment)、赤外線探査 (Infrared Scanning Radiometer Experiment)、紫外線探査 (Ultraviolet Spectrometer Experiment) などが行われ、月面上では、Lunar Atmospheric Composition Experiment が、以前のミッションではなし得なかった「大気の成分(構成)」を分析したのを始め、月表面の電気特性探査 (Surface Electrical Properties)、重力加速度の変動測定 (Traverse Gravimeter Experiment)、重力の時間的変移の測定 (Lunar Surface Gravimeter)、中性子による月表面混合比率測定 (Lunar Neutron Probe Experiment)、熱損失率調査 (Heat Flow Experiment)、人工地震(月震)波による探査 (Lunar Seismic Profiling Experiment) などが実施されている。 ここまでの各ミッションで行われてきた実験やサンプル採取については、当該ミッションの中では然したる意義を見いだせないものもあった。それらを具体的に指摘することは控えたいが、それらこそがアポロ計画の実体を垣間見る「覗き穴」となっている可能性があるともいえる。さらに、各ミッション単独で終了した実験と複数のミッションを通して継続的になされた実験があったこと、あるいは、ある実験と別の実験が互いに補完しあう関係にあって、各々が得たデータを関連付けることで「ある命題」を打ち立てることができたこと、及び、その相乗効果として次回の実験の精度も段階的に上がっていったことなど、根気よく探せば「覗き穴」は多数存在するのである。 ----- [ アポロ計画とは一体何だったのか ― NASAの様変わり ] 有人月探査計画(*1)はこの17号で事実上終了するが、アポロ計画の目的が 「月という天体の身元調査」 であったことは各ミッションを概観してみれば明らかだ。月周回軌道上及び月面上から行われた様々な撮影、実験、サンプル採取を通して、可能な限りの解明を試みたのであり、単なる「探検旅行」 あるいは 「プロパガンダ」とはわけが違うのである。クルーにしても、アストロノートというよりも科学者(サンプリング及び実験の担当者) とでもいうべき役割を担っていたのであり、「英雄」(*2)という衣を着せて彼らを見ることは、かえってアポロ計画の実体をうやむやにしてしまうおそれがある。くどいようだが、アポロ計画は大変な成果を収めたのである。 問題があるとすればデータ公表に際してのNASA及び国家の姿勢だろう。アポロ計画で得られた貴重なデータの、その殆どは一般人の目に触れることなく眠っているものと思われるからだ。一説には、公表されたデータは全体の5%にも満たないともいわれている。もっとも、故意なのか過失なのか(*3)、非公開データであるはずのものが「さりげなく」漏れ出してくることがあるから不思議だ。 ----- (*1b) アポロ13号は元々は有人月面探査ミッションだったが、爆発事故で着陸が中止されて有人月周回ミッションに変更された。 (*2) 有人月探査(有人月周回ミッション及び有人月面探査ミッション)を果たしたアストロノートが増えるに従って「英雄」というとらえかたは次第に薄れていくことになる。それは例えば、アポロ8号〜13号までのクルーは、エポックメーキングだった、又は困難に直面してそれを克服したことをもって「英雄」と称えられたが、14号以降のミッションについては表面的にはそのような要素が無かった(ように見えた)からではないのか。 (*3) NASA自体、アポロ計画当時とは大きく様変わりしてしまった。退職した者もいれば他の会社(組織・団体)に転職した者もいるわけで、公開可能なデータと非公開データ(機密データ)の区別が事実上できなくなっている可能性がある。 |
70-millimeter Hasselblad Camera 16-millimeter Maurer Data Acquisition Cameras (DAC) Lunar Surface TV Camera Mapping Camera System Panoramic Camera 70-millimeter Hasselblad EL Camera 35-millimeter Nikon Camera Westinghouse Color TV Camera |
月の裏側にあるエイトケン・クレーター(Aitken crater、16.8S,173.4E、直径約135km)は、南の海(Mare Australe、直径約900km)(*)の東端から北東方向へ2000kmほど行ったところにあって、あの有名な南極−エイトケン盆地(South Pole-Aitken Basin)のちょうど外周あたりに位置している。クレーター内部の平地部分は海と同じような形成過程を経ているのかもしれない。低反射率の滑らかなたたずまいはツィオルコフスキー・クレーター (Tsiolkovsky crater、21.2S,128.9E、直径約185km)を髣髴させる。 ----- |
アポロ計画では既にお馴染みのコペルニクス・クレーターである。Latitude:9.7N 、Longitude:20.1W、直径は約93km。形成されてから10億年以内の比較的若いクレーターと思われる。観測していてもよく分かるが、このクレーターはとても深くて周壁も複雑だ。よく見るとクレーター中央部に「へそ」のような高地部分が存在しているのが確認できる。 月の表側で最大規模の光条 (Bright-rays)(*1)を放つこのクレーターは、しかし、月齢、高度、アングルによっては全く違った印象を与えるから不思議だ。位置としては、月の表側の中心部分から1000kmほど北西方向に寄った場所にあり、エリアとしては島の海(Mare Insularum、直径約900km)に属している。コペルニクス・クレーターについては、アポロ12号でも撮影されているのでそれらと比較されたい。 ----- |
イメージ上端(*1)に見える巨大なクレーターがコペルニクス・クレーターで、そこから四方八方に光条が放たれているのがよく分かる。その光条の道筋をイメージ下方向(北方向)に辿っていくと、小さいながらもくっきりと目立っているクレーターがある。これがピュテアス・クレーター(Pytheas crater、20.5N,20.6W、直径約20km)で、鋭い隆起状態を見れば分かる通り、直径に比べて周壁が異様に深い(*2)クレーターだ。周辺にはいくつかの連鎖クレーターも目につくが、これらもコペルニクス・クレーターの形成過程と無縁ではないだろう。ちなみに、ピュテアス・クレーターを含む滑らかなマテリアルのエリアは雨の海(Mare Imbrium、直径約1160km)に属している。雨の海は「マスコン(重い物質/重力異常地帯)」が存在することでも有名である。 ----- (*2) ピュテアス・クレーターの深さはおよそ2500mほどある。ピュテアス・クレーターとコペルニクス・クレーターとの中間あたりにある双子のようなドレーパー・クレーター(Draper crater、17.6N,21.7W、直径約9km)もかなり深そうだ。 |
イメージ中央やや左よりの大きなクレーターがエラトステネス・クレーター(Eratosthenes crater、14.5N,11.3W、直径約58km)で、右下に落ち込んでいるのがコペルニクス・クレーター(Copernicus crater、9.7N,20.1W、直径は約93km)だ。このイメージは右側方向が月の南西方向となっている(*1)ことに注意。
両クレーターは隣接していて尚且つ似通っているが、長く伸びるギザギザ状の裂溝との位置関係で容易に見分けることができる。
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右の2枚のイメージ中に見えるコニーデ型火山のような美しいクレーターがオイラー・クレーター(Euler crater、23.3N,29.2W、直径約25km)で、上述のピュテアス・クレーター(Pytheas crater、20.5N,20.6W、直径約20km)の西200kmほどのところに位置している。左側のイメージは月の「早朝」に撮影されたため、クレーター内部が影で隠されていて(太陽光線の角度が関係している)内部の様子が全く分からない。これに対して右側のイメージのオイラー・クレーターは、太陽光線が上方から注がれていることもあってか、クレーター内部の様子がはっきり確認できる。内部には隆起した地形があって、さらに小さなクレーター状の地形も存在しているようだ。 ----- (*2) 周壁が隆起している(クレーターの深さがある)クレーターは、太陽光線が斜め上からあたるとくっきり目立つ存在となるが、逆に満月のように真上から太陽光線があたると立体感が無くなって「隆起や深み」が失せてしまうことになる。 |
右のイメージの上半分を占めるのが、月の裏側にある不思議な二重クレーターのバンデグラーフ・クレーター(Van de Graaff crater、27.4S,172.2E、直径は約233km)である。長さ(long)は270kmもあるというから巨大である。ここは、上述のエイトケン・クレーターの南200kmほどのところにあたり、そこはまた、有名な南極−エイトケン盆地(South Pole-Aitken Basin、直径約2500km)に含まれるエリアでもあるのだ。なお、左端にはバークランド・クレーター(Birkeland crater、30.2S,173.9E、直径約82km)が隣接している。 |
右のイメージはアポロ17号のランディング・サイトであるタウルス・リトロー(Taurus-Littrow)を月周回軌道上から撮影したものである。イメージ中央の谷(山間部)がランディング・ポイントで、四方を山に囲まれているのがよくわかる。位置としては、静かの海(Mare Tranquillitatis = Sea of Tranquility)と晴れの海(Mare Serenitatis)とのちょうど狭間にあたる、山あり谷ありクレーターありの複雑なエリアといってよい。それにもかかわらず、月面上で撮影された写真に写っていた情景は幻想的で非常に美しく、地球の南極か北極にいるような錯覚をおぼえるから不思議だ。 ※ このイメージは、月着陸船(Lunar Module)のランディングに先だってアポロ宇宙船(Command Service Module)より撮影された。 |
アポロ17号のランディング・サイトは、静かの海(Mare Tranquillitatis = Sea of Tranquility)と晴れの海(Mare Serenitatis)との境界付近にあるタウルス・リトロー(Taurus-Littrow)だ。このサイトは晴れの海のちょうど縁に面しているので、サンプル採取等によって晴れの海をつくったとされる「衝撃(Impact)」(*3)に辿りつける可能性もある。さらにそこは、アポロ有人月面探査ミッション(11号〜17号)としては唯一「リンクル・リッジ(Wrinkle ridge、しわ状の尾根)」(*4)を調査しうる位置にある。 月着陸船(Lunar Module)は、この山岳エリアのちょうど谷にあたる平坦な場所にランディングしている。周囲を山に囲まれ、同規模のクレーターが五目並べのように規則的に並んでいるその様は、まるで地球の南極か北極を髣髴させる幻想的で美しいサイトだった。アポロ計画最後の月面探査を飾るに相応しい景観といえる。 ----- (*2) リトロー(Littrow)はリトロー・クレーター(Littrow crater、21.5N,31.4E、直径約30km)のことで、アポロ17号月着陸船は、ここから南へ30kmほど行ったところに着陸した。 (*3) 月面における「海(Mare)」は、隕石や天体が衝突した時の「衝撃によって誕生した巨大衝突盆地」であり、その直径は300kmを超える規模を持っている。別名「ベイスン(Basin)」あるいは「インパクト・ベイスン(Impact Basin)」とも呼ばれる。 (*4) リンクル・リッジとは「しわ状の尾根」のことで、長く延びた細い溝のような又は断崖のような地形ともいえる。この地形は「海(Mare)」と呼ばれるエリアに多く見られるが、それらが特に多く集まっているのが雨の海(Mare Imbrium、直径約1160km)である。 今回のミッションでも前回の16号、前々回の15号と同様、EVA(月面船外活動)が3回実施され、月面車 (Lunar Roving Vehicle /LRV)を使用した効率的な探査活動(実験やサンプル採取)が行われた。 EVA-1 /First Extravehicular Activity/7 hours and 12 minutes
EVA-2 /Second Extravehicular Activity /7 hours and 37 minutes
EVA-3 /Third Extravehicular Activity /7 hours and 15 minutes
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タウルス・リトロー(Taurus-Littrow)にランディングしたアポロ17号には二つの地質学的な目的があった。一つは、高地エリア(山、North Massif/South Massif)においてサンプルを採取することであり、二つは、谷エリアにおける最新の火山性地殻変動の証拠を探し出すことである。また、晴れの海(Mare Serenitatis)のちょうどリム(縁)に面していることから、サンプル採取によって晴れの海をつくったとされる「衝撃(Impact)」に辿りつける可能性もある。さらにそこは、「リンクル・リッジ(Wrinkle ridge、しわ状の尾根)」と呼ばれる独特の地形をも調査しうる位置にありその成果も期待される。 |
アポロ17号で得られた各実験データから総合的に判断すると、アポロ17号のランディング・サイト周辺には 1.0km〜1.4km の厚さの玄武岩層が存在するようである。なお、少ないとはいえ、角礫岩(Breccia、ブレッシア)もサンプルとして採取されている。 右上の4枚のイメージは、左側から Norite 78236、Troctolite 76535、Breccia 76055、Breccia 72255 である。 「Norite 78236」 は主に斜長石(Plagioclase)および輝石(Pyroxene)からなる岩石だが、「Troctolite 76535」 は、逆に輝石(Pyroxene)はほんの少量しか含まれておらず主に斜長石(Plagioclase)および橄欖石(Olivine)から構成されている。以上の岩石はおよそ42億年〜45億年前(*1)に形成されたとされている。残りの2つの岩石は、むらのある色彩(黄褐色と灰色の部分からなる)が独特の「Breccia 760553」と、奇妙な形をしたライトグレーの「Breccia 72255」で、いずれも角礫岩(ブレッシア)に分類されている。前者の「Breccia 760553」は3回目の月面船外活動(EVA-3、Station 6)において北側の山の斜面(North Massif)のあたりで採取されたものだ。 - - - - - - - - - - |
最新の火山性地殻変動の証拠を求めて、爆発性の噴火によって形成されたと思われる ショーティー・クレーター(Shorty Crater) 周辺を探査し、そのリム(縁)の部分で有名なオレンジ・ソイル(orange soil/爆発性の噴火でできたもので火山ガラスや黒曜岩を含む) を採取する。これは、今から36億4000万年前に約400kmの月面下で溶解していた物質から造られたものといわれている。 なお、同種のサンプルがアポロ15号でも採取されている。 |
SIM (Scientific Instrument Module) |
上の左側イメージの、剥き出しの機材群が、アポロ15号の機械船 (SM) にマウントされていた SIM (Scientific Instrument Module) である。 Metric Camera、Panoramic Camera、Stellar Mapping Camera、Mapping Camera System、レーザー高度計、スペクトラ・メーター (アルファ線 /ガンマ線 /X線) 、などで構成され、目的別の高水準な撮影・実験を可能としている。上の右側イメージは機材の配置図。 撮影済みのフィルム (カセット/マガジン) は大気圏再突入までに EVA (宇宙遊泳) によって回収される。 SIM は15号、16号、そして17号にマウントされていた。 SIM において行われた実験は以下の通り。 Metric and Panoramic cameras /SIM 系統的、組織的な月面の撮影。 Laser Altimeter /SIM レーザー高度計。 S-Band Transponder Experiment /SIM この実験は、月周回軌道上の宇宙船(CSM)と地球で電波をやり取りしてその電波の周波数の変移(ドップラー変移)を測定し、正確な宇宙船の速度(変化)を求めるものである。具体的には、2115 MHz の電波を地球側から宇宙船に送信し、それを受けた宇宙船側が地球に再送信する。0.01 Hz(0.6 mm/sec)の変移まで識別可能である。但し、宇宙船が月の裏側に入っている間は実験が行なえない。 なお、この実験は14号、15号、16号、そして17号で行われた。 宇宙船の速度(変化)を得ることの意義は、それによって「月の重力の位置的な変化」、「月を構成する物質の分布・密度」すなわち「月の内部構造」が明らかになることにある。 月周回軌道上の宇宙船の速度(変化)は、太陽の重力、地球の重力、および月の重力によって決定される。これらのうち、太陽の重力及び地球の重力の影響(数値)は既に判っているので、「宇宙船の速度(変化)」から「月の重力の位置的な変化」を求めることが出来るのである。 さらに、得られた「月の重力の位置的な変化」から、月内部の「物質の分布・密度」すなわち「構造」を推測することが可能となる。 この実験によって MASCON(マスコン/重い物質) と呼ばれる重力異常地帯の存在が明らかになっていくのである。 なお、宇宙船が地球に帰還した後はサブ・サテライト(Subsatellite/無人の月周回人工衛星)に引き継がれる。また、月の重力の時間的変移については Lunar Surface Gravimeter で研究され(残念ながら実験は失敗に終わった)、月の重力加速度の変移については Traverse Gravimeter Experiment でそれぞれ研究されている。 Orbital Mass Spectrometer Experiment /SIM 月の大気の測定。 Apollo Lunar Sounder Experiment /SIM Apollo Lunar Sounder Experiment はアポロ17号でのみ実行された。「Sounder」 は探測機 (器) という意味で、レーダー波を使って月表面及び月の内部 (構造) を探るものだ。波長 2〜60m の VHF (超短波) 及び HF (短波) を SM (機械船) に取り付けられているアンテナから月に向けて発信し、反射されて戻ってきた電波を解析するのである。使われた波長は乾燥している月には最適で、広範囲にわたり深層まで探査することができた。この探査 (実験) で得られたデータは非常に精度が高く、単独あるいは他の探査 (実験) と連携して月表面や月の内部構造を明らかにした。 Ultraviolet Spectrometer Experiment /SIM 太陽から照射されている紫外線が月の大気 (極めて希薄な大気) によってどう散乱されるかを観測することで、月の大気の密度や構成を知るものである。アポロ17号で実施された。 この実験は、水素原子/分子、酸素原子、窒素原子、炭素、一酸化炭素、二酸化炭素、キセノンに対して特に感度が良く、事実、1立方センチメートルにつき6000個の水素原子を見つけ出すことができた。 但し、ヘリウム、ネオン、アルゴン及び存在が予想されていたその他の分子/原子を見いだすことはできなかったようだ。 アリスタルコス・クレーター(Aristarchus crater、23.7N,47.4W、直径約40km)の一時的な発光現象に関して、ガスが放出された事実があるか(あったか)否かも計測したが、その事実は確認されていない。 実験で使われたUV分光計は、地球、他の星々、銀河系、星雲など、月以外のものも観測対象とし貴重なデータを提供してくれた。 - - - - - Infrared Scanning Radiometer Experiment /SIM
太陽からの放射を受けている昼間の月は非常に熱いが、これが夜間ともなると昼間に蓄えられた熱を逆に放射して冷えていく。そして、この冷却率 (赤外線放射率) こそが月の物理的特性 (構造) を解明するデータとなる。 冷却率 (赤外線放射率) は物質の密度や熱伝導率に関係しているからである。 |
ALSEP は月面上における各種実験装置群(パッケージ)で、セントラル・ステーション(Central Station)を核として、そこからケーブル類を介して各種実験機器(コンポーネント)へコネクトされている。いくつかの実験は飛行士たちが帰還した後も続行されて地球にデータを送信していた。 ALSEP への電源供給は、フィン状(45度間隔で8枚)の外観が独特の原子力発電機 ※(放射性同位元素発電機 /The Radioisotope Thermal Generator /RTG)によってなされ、実験及び地球との通信を可能としている。 ※ 原子力発電機 RTG については環境保護の観点から疑問を呈する声もある。アポロ12号のRTGも参照。 |
この実験は、ランディング・サイトのタウルス・リトロー(Taurus-Littrow)近辺における重力加速度の変動を測定し、月の構造を明らかにするものである。アポロ17号で実施された。測定は3回行われた EVA(月面船外活動)の12個所で実施され、その結果は地球に送信される。 なお、月の重力の位置的な変移については S-Band Transponder Experiment(SIM) で、月の重力の時間的変移については Lunar Surface Gravimeter(失敗)でそれぞれ研究されている。 |
月面の土壌を力学的にチェックし、それら土壌が人間の活動(動作)に及ぼす影響を調査するものである。月面着陸を行なった全てのアポロ有人月着陸ミッション(11号、12号、14号、15号、16号、17号)で行なわれた。チェックは、様々な器具(硬度計、ロッドなど)を使用して、いくつかの特性(硬度・強度、粒子密度など)について実施され、それに付随して、サンプル採取や写真撮影も行なわれている。 月表面の土壌は、10〜20cmぐらいの深さまでは容易にサンプリング・チューブを打ち込ませてくれるが、それ以上の深さとなると何らかの「技」を必要とする。例えば、70cm(これが最深)の深さまで打ち込むには、ハンマーで50回ほど叩く必要があった(アポロ15号、16号、17号では電気ドリルを使用できた)。 月表面の土壌は、微粒子状の細かい塵が堆積したようなもので、LM(月着陸船)の着陸時にはロケットの噴射で巻き上げられて雲のように辺りを覆い尽くした(全ての着陸シーンがそうだったわけではない)。さらに、これらの塵(のような土壌)には静電気を帯びたものもあって、宇宙服や実験機器などに張りついて飛行士たちをてこずらせた。 以上のような特性を持つ土壌ではあるが、LM、飛行士、実験機器、LRV(Lunar Roving Vehicle /月面車)を「埋没しない」程度には支えてくれた。もっとも、微粒子状故に「めり込み」は激しく、飛行士、各種機器、LRV(車輪)で1〜2cm、LM(フッドパッド)に至っては2〜20cm土壌にめり込んだ。 |
月表面は隕石等による衝撃や地殻変動で混ざり合っているが、この実験は、その混合比率を月表面の異なる部分 (位置/深さ) に含まれる中性子の数から求めるものである。実験機材は2mの長さのロッドといくつかの検出器からなっていて、49時間ほど表土に接した後回収されて地球に持ち帰られる。 イベント別にいえば、EVA-1 で設置され、EVA-3 で回収されることになる。 |
月表面の電気特性を検出する実験である。LM (月着陸船) の近くに設置された送信アンテナと、それを受信するLRV (月面車) 側のアンテナで構成されている。 LM から月表面を通して送信された電気信号を LRV (何カ所かのトラバース停止地点にて) が受信・記録し、その、送信された電気信号と受信した電気信号を比較・解析し、月表面の電気特性を明らかにするのである。 この実験で得られたデータ・情報は、Bistatic Radar(アポロ14〜16号で行われた月面の電波探査)や、Lunar Sounder Experiments(レーダー波を使った月面探測) にも寄与している。 実験の結果によると、月表面の上層部分 (2km) は極端に乾燥しているようである。 上層部分(2km)よりも深い地層が気になるところだ。 |
アポロ16号でお目見えした Cosmic Ray Detector (宇宙線検出実験) であるが、アポロ17号では、Lunar Surface Cosmic Ray Detector (月面上の宇宙線検出実験) として、規模を縮小したバージョンで再度行われている。 これらの実験では、太陽 (太陽風) あるいは銀河系のどこからかやってくる 1000億〜1億5000万電子ボルトのエネルギーを持つ素粒子を検出している (16号では太陽フレアー時の素粒子も観測している)。 |
惑星 (天体) が内部の熱を損失する度合い (損失率) は、地殻変動や火山活動の有無、頻度、規模などを知る上で貴重なデータとなる。そして、Heat Flow Experiment は それら損失率を測定する実験である。アポロ15号、16号、17号で行われたが、16号の実験はケーブル破損事故で失敗した。 実験の結果、1平方メートルあたり21ミリワットのヒートフローを記録した (アポロ17号では16ミリワット)。地球の場合の 「87ミリワット(平均)」 と比較すると月のヒート・フラックス (heat flux) は地球の場合の18〜24%程度なのだ。但し、月のヒート・フラックスは地形 (海、高地など) によって幾らかの偏りがあるようだが。 以上のことは、月の天体としてのサイズや火山活動が終焉した時期 (約30億年前) などから予想されてはいた。 |
アポロ14号と16号で行われた Active Seismic Experiment、そしてこの17号の Lunar Seismic Profiling Experiment。いずれの実験も、少量の爆薬によって地震 (月震) 波を発生させることで月面の上層部分の構造を明らかにするのが目的だった。 実験の結果、14号、16号、17号のランディング・サイトにおいては、深さ数百メートルまでの地層を伝播するP波が、予想に反し、秒速0.1〜0.3km の低速度であることが判明する。これは、隕石の激突によって形成された角礫岩質の地層であることが原因かもしれない。 また、アポロ17号のランディング・サイト周辺の玄武岩層は、Traverse Gravimeter Experiment で測定された厚さ (1km) よりも僅かに厚い (1.4km) ことが判った。 |
アポロ15号の Cold Cathode Gauge は月の大気圧 (分子数) の測定にとどまったが、 Lunar Atmospheric Composition Experiment では月の大気の成分 (構成) までも その観測のターゲットにしている。 それによると、月の大気を構成する三大元素は ネオン、ヘリウム、水素であり、これらだけで月の大気の大部分を占めている。その他、メタン、二酸化炭素、アンモニア、水蒸気(水)、アルゴン-40なども確認されている。 一定の大気を維持するには恒常的な大気の供給源がなければならないが、月の大気の主な供給源は太陽風や彗星・隕石 (衝突) といわれている。 また、月の内部も供給源として無視できない。例えば、アルゴン-40は月の内部に存在するカリウム-40が (放射性) 崩壊することで生産されるし、その他、ヘリウム-4 なども月の内部から供給されている。 もっとも、月は重力が小さいので、これらの大気が容易に宇宙空間に逃げてしまう。 あるいは、太陽からの紫外線でイオン化されたり太陽風に飛ばされたりもする。 |
月に衝突する微粒子を研究する実験である。実験機材は異なる方向を向いた3個のセンサーからなる。 月面上 (の衝撃) を起源とする微粒子だけでなく、彗星からの微粒子や恒星間に漂う星間物質からの微粒子の検出も期待されたが、検出された主な微粒子は低速度で月面上を横切っている細かな塵であった。 |
ALSEP パッケージに含まれる重力計によって月の重力の時間的変移を正確に検出することで、アインシュタインの一般相対性理論で予言された重力波を検証する実験である。潮汐作用や地震 (月震) 学的な研究にも寄与するものと思われた、、、が、残念ながら実験は失敗に終わる。 なお、月の重力の位置的な変移については、S-Band Transponder Experiment (SIM) で研究されている。また、Traverse Gravimeter Experiment は月の重力加速度の変移を数地点にて計測した。 月の重力の時間的変移を正確に検出できていれば、月に関する興味深い事実が浮かび上がってきたかもしれない。 |
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